Dear my Santa Claus

ねぇ、お母さん、サンタクロースがお父さんって本当?

よくある子供の質問だとは思うんだ。
だけどその質問は、今思えば、お母さんにはちょっと残酷な質問だったかもしれない。

いくみちゃんがね、サンタクロースはお父さんだって言ってたの。
今年のプレゼントはクマのぬいぐるみを貰うんだって、おねだりしたんだって。
ねぇ、サンタさん、お父さんなの? お父さんが来てくれるの?

何も知らない私は、嬉しさに飛び跳ねそうな勢いで、お母さんにそう問い詰めた。
そんな私に、お母さんは少し困った顔して。
そして、どこか寂しげに………笑っていた。

………なるみ。

私を通してどこか遠くを見るように。でもその声は優しくて穏やかで。

なるみは、サンタクロースはお父さんがいい?

その瞳の奥に宿った切なげな輝きに、幼心に悟ってしまった。
この質問はお母さんを悲しませるものなのだと。
何故悲しいのか、まだその頃の私には分からなかったけど。

………ううん。
なるみは白いおひげのおじいちゃんのほうがいい。

 

 

【Dear my Santa Claus】

 

 

「おぉ、さすがクリスマスイブ。どこもかしこもカップルだらけだわ……」
街を彩る赤や緑のイルミネーション。デパートの玄関には青のイルミネーションに飾られたツリー。
携帯片手にいちゃいちゃとカップルが写真を撮っては人ごみの中に流れていく。
サンタクロースの格好をしたお兄さんがカラオケの割引チケットをばらまいている通りから少し外れた玄関前のベンチに腰を下ろして、腕時計に目を移せばもうすぐ七時を回る頃。
………やっぱちょっと無理言っちゃったかな?
昨日の会話を思い出して、ぷふっと思わず笑ってしまう。
今ごろあの幼馴染は耳まで真っ赤になりながら子供用のおもちゃ売り場でおねだりしたクリスマスプレゼントにラッピングの注文をつけていることだろう。

『せっかくのクリスマスイブだし、どこかいくか?』

そんな電話が掛かってきたのは昨日。
高校卒業して県外の大学に進学してしまった水希と電話で話すのは久し振りだった。
いつもはメールで調子どお? で済ませてたから。それでも月に二回程度かな。
冬休みに入ったら家に帰ってくるってメールで言ってたから、落ち着いた頃にでもお邪魔しに行こうかなーて思ってたんだけど。
………なんかちょっと、ね。
あんな夢を見たせいかな。
会うのが少し恐いなって思ってたんだ。
でも声聞いた途端、やっぱりちょっと安心したから。

『……あーのさ、彼女っぽくクリスマスプレゼントおねだりしちゃったりな特典も有りっすかね?』

たぶん困るだろうなぁ……と思いつつもね。
でも、もういいかな? おねだりしてもいいかな? って……。

『……頼んでいいッスかね?』

電話の向こうで水希がぽかんっと口を開けている表情が容易に思い浮かぶ。
あはは、やっぱちょっとびっくりするよね?

『……ほんとうにそれでいいんだな?』
『ファイナルアンサー!』

しばらく間を置いて。

『……分かった。明日探しに行くよ。
七時にデパートの玄関のツリーの前で待ち合わせな』

苦笑交じりにそう言って、ちょっと難しいわがままに水希は応えてくれた。

どうかしてるって思うよねー?
でもね。
もう水希以外に頼めないんだよ。
サンタクロースにはもう、頼めないから、さ………―――

「……ほい」
ぼすんっと頭の上に少し重めの手ごたえ。
真上からかけられたちょっと低い声に見上げてみれば犯人はすぐそこにいた。
「おぅ、水希君、おつかれ」
「ほんと疲れたよ……」
そう言って水希は私の頭の上に乗せている大きな紙袋を私の膝の上に置くと、隣にとすんっと腰を降ろした。
あはは、やっぱちょっと恥ずかしかったのかな? ホント、お疲れ様!
「ではおもむろにぃ♪」
紙袋の口に貼られた金のシールを破かないように気をつけて剥がして、中を見る。
そこには、白い不織布に玄関のシンボルになってる青いクリスマスツリーがプリントされた大きな袋に緑のリボンを巻いてキャンディ包みにしたラッピングがひとつ。
「おぉ、子供向けなラッピングじゃない」
「大人向けのにしてくださいって頼んだんだよ、一応」
ホントに大変だったんだからな、とぶつぶつ呟く水希の頭を、よしよしエライエライと撫でる。
……ああ、ぶすーって黙り込んじゃった。
「開けるのがもったいないなぁ……」
といいつつ、おもむろに緑のリボンを引っ張る。
「て、ここで開けるなぁっ」
「いいじゃんいいじゃん♪」
慌てふためく水希君を即行無視して、ラッピングされたばかりの包みを開けた。

………ああ、やっともらえた。

「えっへっへっ。うさしゃーんっ★」
包みから現れたのはレトロなうさぎのぬいぐるみ。くりっとした黒い目に茶色のふわふわの毛。
ピーターラビットみたいに瀟洒な服を着てお座りしている。
ぎゅっと抱きしめると少しだけ甘い香りがした。
「わーい、水希君よく頑張ったねー♪」
いい子いい子とぶすくれる水希の頭を撫でながら、その鼻先にうさぎのチュウを押し付ける。
「……嫌がらせか?」
「んーん、結構マジで欲しかったのよ?」
しっしっしっと笑う私の顔を複雑そうに水希は見ていた。
「子供の頃にもらえただろう。ぬいぐるみは」
「………うん。でも欲しかったのはうさぎのぬいぐるみなんだ。
でもおねだりできなかったんだよ。
ぬいぐるみが欲しいって言えたけど……テディベアだったんだ。
そっちも好きなんだけど……でも、うさぎが欲しかったから」
「………」
ああ、ちょっとばつの悪そうな顔してる。
水希は知ってるもんね。私が小さい頃に親が離婚して、近所に引っ越してきたんだもの。
全部聞いてくれたんだものね。どうしたらいいかわかんない悲しいもの、全部。

ゴメンね。
ありがとう。

今もこうやって何も言わずに優しく笑って側にいてくれてる。

「ねぇ、水希」
「ん?」
「うさぎ、ありがとうね? 大事にするから」
にひって笑う私の頭に、水希はぽんぽんっと軽く頭を叩くように撫でた。
ああ、この手、好きだな……。
いつの間に水希の手、こんなに大きく、温かくなったの?
「……よかったな。やっと大事にできるな?」
「…………うん」
まるで父親のような手。
私の記憶の中にこんな風にお父さんから頭を撫でられた記憶が無いのに、どうして懐かしいって思わせるの?
「愛海?」
はたっ……と。
気がつけば頬に温かいものが伝い落ちていた。
「……あー」
慌てて拭い取ろうとする水希の手を苦笑しながら押しのける。戸惑う水希に、もう大丈夫だから、と笑ってみせた。
……大丈夫。悲しいんじゃないんだ。
ただ、愛したかっただけなんだ。

ねえ、サンタさん。
私はあなたを愛したかったんだよ。
顔も、声も知らないあなたを愛する事が出来ないのが、ただ、寂しかったんだ。
顔も、声も知らないまま離れてしまったあなたを憎む事すら出来なかったんだ。

でも、もういいかな?

ねえ? 小さい時の私。
私の隣にいる人があなたのサンタさんになってくれたよ。
あなたのよく知ってる人だよ。

もう、いいよね?

これからを、愛していけるよね?
「水希君、水希君」
ちょっとちょっとと手招きして、耳貸して、と小さな声でささやく。
頭に疑問符を浮かべる水希に、そっと。
―――耳たぶを噛んでみた。
「!!!!!」
「あっはっはっはっ!!」
真っ赤になって飛びのく水希に膝を叩いて爆笑する。
「~~~~……」
やられたとばかりに赤面のままうなる水希。
「ほっぺにチュウが希望だった?」
「うるせぇっ」
しっしっしっと笑う私を水希はじろっと睨み見て、ふぅっと諦めたようにため息を吐くと、最後の抵抗と言わんばかりに私の頭をくしゃくしゃっと引っ掻き回した。
「ほら、そろそろいくぞ? 予約してた店に遅れる」
「はいはーい」
すたんっと軽く立ち上がって、簡単にうさぎのぬいぐるみを包みなおすと、そっと紙袋の中に横たえさせる。
家に帰ったらまたちゃんと飾るからね。それまで安心して眠ってて?
そっと紙袋を肩に担いで、今何時くらいだ? とポケットから携帯を取り出して覗き込む水希の背中を追いかけて。
「……ねぇ、水希」
「ん?」
振り向く水希の唇に。

―――――Merry Christmas

 

 

 

—–あとがきみたいなもの—–

この作品は2006年1月の大阪インテのイベントにて無料配布本で発行していた作品です。
処女作「浴衣の待ち人」の主人公、水希(みき)と愛海(なるみ)のおよそ三年後くらい?の設定で書いています。大学生くらいかな。
本編を知らなくても読める仕様。。。というか、本編にあまり関わりがありません(^^;)
愛海ちゃんの家庭は幼少時代に両親が離婚している設定だったのでそれを借りてきた感じです。
振り返ってみると、今まで私が書いてきた中で一番恋愛しているかもしれない。
両思いで、穏やかに恋愛しているのはたぶんこの二人かと。
外伝の流善と湖乃衣verは短く、sadendだったからその影響?
このふたりはずっとこんな感じです。
兄妹のように育ってきて、熱い恋愛は全くない、ずっと穏やか。
喧嘩をしても必ず水希君が折れます。
にゃあにゃあ噛み付くのは愛海で、でも本気で噛む事はあまりないからそれを水希君はいつも許している。
愛海もそれが分かっているから本気噛みはほとんどしない。
たとえ本気噛みしても、水希君逃げずに受け止めちゃう。
互いを分かり合ってるからこそできる、ある意味究極のバカップル。

……だからこの二人の話を書くことはあまり無いかとorz
(作者自身がこの二人の甘さについていけないから)
ごめんねぇ、こんな作者で。